マンモグラフィ認定試験合格に必要な物理知識対策(制動X線,特性X線,ヒール効果)

マンモグラフィ認定試験における物理領域の攻略 認定試験

試験でも1問は出る分野です。(20問中の1問なので大きいです)

物理は学生以来だ‥昔の記憶を呼び起こそう‥

X線には2種類ありますが、すぐに出てくるでしょうか?おそらくこの辺りは卒業したての新人さんの方が正確に即答できると思います。

読み進めていくと、昔の講義の記憶が蘇ってくるはずですので懐かしいなぁと思って読んでいただけたら幸いです。それではやっていきましょう‼︎

マンモグラフィー認定試験に登場する2種類のX線

この記事の最初に、X線には2種類ありますとお伝えしましたが思い出せたでしょうか?

制動X線(連続X線)と特性X線!  懐かしい‥

診療放射線技師の国家試験でも必ず出題されますね‼︎ここではそれぞれに関してどのような発生機序であるのか、マンモグラフィではどのように使用されているのか、そして試験で必要になってくる物理特性の数字に関して解説していきます。

制動X線(連続X線)

教科書的に短くいうと電子原子核相互作用をした結果、電子が減速(制動)された際に発生するX線です。

えっ、、電子はどこからきたの?

入射電子は陰極(カソード)から放出されるよ!

原子核と相互作用ってのもよく分からないし‥

じゃあ、電子と原子核の相互作用を解説していくね!

制動X線を理解するために必要な相互作用に関して

まず、電子と原子核の電荷をみていきます。電子はマイナスの電荷原子核はプラスの電荷を持っています。ここまではOKでしょうか?

電子が陰極から放出されて原子核の方に飛んでいくとどうなるか想像してみて!

うーん、、プラスとマイナスが近づくから電子は原子核に引き寄せられそう!

マイナスの電荷を持つ電子がプラスの電荷を持つ原子核に近づくと、まっすぐ進んできた電子はぐいっと進路を曲げられます

原子核の立場からみると

原子核からすると、プラスにマイナスのものが近づいてきてそのまままっすぐ逃してたまるかという感じでしょうか。(クーロン力の影響とも言います)

電子の立場からみると

電子からすると順調にまっすぐ進んできたのに急に進路をぐいっと曲げられスピードダウンしてしまいます。この現象、いわゆる電子からするとブレーキをかけられるようなことを制動ともいい、制動X線の名前の由来とも言えます。

制動X線が連続X線と呼ばれる理由

質量があるものが速度を持って運動すると‥

E=1/2mv^2からもわかるように運動エネルギーが発生します。

さて、これまで電子がまっすぐ入射すると当たり前のように話してきましたが、少しだけ言い換えるとこれは電子がある速度を持って入射してくるということですね。

電子は運動エネルギーを持っているということになるね!

電子がブレーキをかけられたときに変化するのは‥

変化するのは速度ですね。ここで先程の式を見ると運動エネルギーが減ることが分かります。しかし運動エネルギーは消えて無くなることは世の原則ではあり得ませんので、何かに変化します。実はこの失った運動エネルギーがX線となり放出されています。これが制動X線です。入射電子の曲げられ具合はランダムであるため、連続スペクトルを示します。本によっては連続X線と書いてありますが同じ意味です。

制動X線を理解するためのイメージ図

特性X線

教科書的に短く言うと、軌道電子が遷移した時に、そのエネルギー差に相当する放射線がでることとなります。学生から遠ざかっている方は、遷移エネルギー差というワードが出てきた時点で、はてなマークが浮かぶと思うのでそのあたりを試験に必要な分だけしっかりと解説します。

特性X線を語る上では外せない軌道電子に関して

制動X線の時に登場した入射電子とは異なり、特性X線で登場する電子は原子核に捕獲されている軌道電子です。軌道電子とは、原子核のまわりを囲っている電子のことで、原子核に近い方からK殻、L殻、M殻、N殻‥と続いていきます。

大事なルールとして、軌道電子は原子核に近いK殻から順に埋まっていきますが、それぞれの殻には決められたた軌道電子数しか入れません。K殻なら2個L殻なら8個M殻なら18個という感じです。これには法則性があってK殻、L殻、M殻にはそれぞれ1、2、3という主量子数という番号があり、それらをnとするとその殻にはいる電子数は2n^2となります。

特性X線を語る上では外せない電子の遷移とは?

K殻の電子が軌道から外れて空席になったとするよ‼︎

軌道電子は原子核に近いK殻から埋まっていくから‥

ここで先ほどのルールを思い出してみて下さい。軌道電子は原子核に近いK殻から埋まっていきますから、空席になったK殻を埋めようと外側のL殻から電子が移動してきます。これが電子の遷移です。

電子の遷移で何が起こる?

この移動で何が起こるかが大切なのでみていきましょう。原子核に近いK殻ほど原子核との結合が強く、それはエネルギー順位が低い状態であると表現します。例えばタングステンを例に見てみましょう。

K殻電子のエネルギー準位は-69.5keVでL殻電子のエネルギー準位は-11.5keVです。

K殻に空席ができてL殻の電子が遷移してきたらどうなる??

L殻の方がエネルギー準位が高いから、K殻に遷移するとエネルギーが余る‼︎

正解‼︎この余ったエネルギーが特性X線となって放出されるよ。

そのエネルギーは、-11.5keV-(-69.5keV)=58keVとなります。

こ余談ですが、特性X線を放出する代わりに軌道電子を放出するオージエ効果は競合(どちらかが必ず起こる)します。この時放出される軌道電子をオージエ電子と言いますが、軌道の結合を解いてあげるためのエネルギーを使った余りがオージエ電子に載せる燃料(運動エネルギー)になります。

原子番号が32(ゲルマニウム)以上では特性X線の方が起こる確率が高くなり、その確率を蛍光収率と呼びます。さて、もう一つ知っておかないといけないことがあります。あと少しなので頑張ってください。

特性X線にも種類がある‼︎-Kα線、Kβ線-認定試験によく出ます。

K殻の空席を埋める電子がL殻の場合に放出される特性X線はkα線、M殻の場合にはkβ線と呼びます。時間のある方は、本に書いてあるスペクトル図を見てみて下さい。

Kα線とKβ線のどちらが強度が強いか考えてみよう

X線強度は光子数と置き換えて考えます。グラフが出たきたら必ず縦軸横軸をチェックしましょう。横軸はX線エネルギーで、縦軸は相対光子数になっているはずです。つまり、どちらが強度が強いのかと問われたらKαと回答しましょう‼︎

波長はKαとKβでどちらが長いかな?

電子が遷移した際にエネルギー差が大きいのはKβ線ですからそのエネルギーは高くなります。エネルギーが高いほど波長は短いため、Kβの方が短い波長であると言えます。次はいよいよマンモグラフィ領域にこれまでの知識を絡めていきます‼︎

特性X線を理解するためのイメージ図

マンモグラフィ認定試験合格に必要な物理の知識

マンモグラフィで必要な物理知識の総論編‼︎

マンモグラフィでよく使用されるターゲットとフィルタの組み合わせとしてMo /MoやMo /Rhがすぐに思いつくでしょうか。モリモリモリロジなどと言われることもあります。マンモグラフィでもX線は制動エックス線と特性X線の両方が発生しますが、特性X線を効率よく使用して撮影しています。

Moの特性X線であるKα線とKβ線は厳密にはそれぞれ2種類あります。しかし実際にはスペクトルの測定上は重なって観測されるため、それぞれ1本ずつ覚えたので十分です

Kαは17.4keV、Kβは19.6keVだよ‼︎(絶対暗記項目)

この数字を見ても、ちょうどマンモで使用するエネルギー領域であることがわかります。ターゲットに電子を当てると制動X線が発生し、先ほど述べた特性X線も発生します。

制動X線は低いエネルギーから高いエネルギーまで連続してスペクトルが分布しますが、低いエネルギーは透過力が弱く体内を通過して検出器に到達できない、、つまり体内で相互作用をしてしまい、検出器まで到達しません。いわゆる画像形成に寄与しないのに無駄に被曝してしてしまうということです。

逆に高エネルギーのX線は被写体を透過し検出器に到達しますが、透過力が強く被写体と相互作用されずにコントラストを低下させてしまいます。

マンモグラフィにおけるターゲットとフィルタ(モリ/モリ?モリ/ロジ?タン/ロジ?って)

ここまでの知識を踏まえて考えてみましょう。モリブデンのターゲットを使用した時、特性X線だけではなく制動X線も発生しますが、低エネルギーと高エネルギーの領域はできればカットしたいですね。ここで登場するのがフィルタです。モリブデンの場合だと20keVに吸収端を持っているため高エネルギーはそれによりカットされます。低エネルギー成分もフィルタで吸収されるため照射されるX線には含まれません。よってターゲットとフィルタをうまく組み合わせることで効率よく取り出したいX線を使用することができるということです。

乳房厚が厚い乳房ではロジウムフィルタを使うのはどうして?

モリブデンよりも吸収端が3.2keV高いことから、少しだけ高エネルギー成分を多く取り入れて撮影ができます。デンスブレスト等の乳房に対してモリブデンフィルタを使用すると、検出器に到達できるX線が少なくなり、被曝をより増やすことになるためロジウムフィルタを使用します。最近のシステムでは、検出器の進化により、W(タングステン)ターゲット/Rh(ロジウム)フィルタを使用されていることも多いです。

ヒール効果

これも学生時代に習っている項目です。ここでもう一度思い出していきましょう‼︎陰極(カソード)から放出された電子は、陽極(アノード)に衝突して相互作用され、X線が発生します。ターゲットには傾斜があるため、カソード側に比較してアノード側の方が線量が少なくなりますが、線質は硬くなります。この一文がわかる方は読み飛ばして下さい。

電子がターゲットに衝突するとありますが、相互作用をするくらいですので電子はターゲットの内部に入り込んでいます。そこでX線が発生するわけですから、X線がターゲットの外に出て照射出来るようになるまでにはターゲットの内部をくぐり抜ける必要があります。

ターゲットに角度がついていることで、陰極側の方が透過経路が短く内部吸収が少ないため、線量が多く線質も柔らかいです。逆に、陽極側では透過経路が長いことで、低エネルギー成分がターゲット自身に吸収され線量も少なくなり線質も低エネルギー成分(軟線)が減り硬い線質となります。

マンモグラフィ装置の陰極と陽極の配置

マンモグラフィでは、乳頭側よりも胸壁側の方が厚みがあり線量が必要であるため、胸壁側に陰極を配置します。余談ですが、手のレントゲン撮影でも線量があまり必要ない指先側へ陽極が来るように配置します。私が新人の時に手の撮影をした際、管球を横方向のまま撮影した結果、左右差のある画像を撮影してしまい先輩に注意された苦い思い出もあります。(笑)

これと同じように、マンモにおいてもヒール効果により左右差が出ては困るため管球が縦方向に置かれているということも重要なので知っておいて下さい。このヒール効果を取り上げたということは、お察しの通りマンモでは顕著に現れるということです。

SIDが小さく、低エネルギーを使用した撮影であるため、ターゲットによる自己吸収が大きいためです。最後にひとつだけ暗記項目を書いておきます。マンモにおいてX線焦点サイズは胸壁側の方が乳頭側よりも大きくなるということを覚えておいて下さい。

ヒール効果を理解するためのイメージ図

盛りだくさんの内容でしたが、出来るだけ噛み砕いて説明させていただいたつもりです。最悪、試験の時には物理現象事項は丸暗記でもOKかもしれませんが、理論がわかっていた方が楽に覚えられると思うので、ぜひマスターしていただけると良いかと思います。

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